どんな思い
小さな小さな旅でここ数年歌舞伎公演をよく拝見するようになりました。歌舞伎はじめ芸能の世界も、私たちが商う工芸の世界も親から子へ技が受け継がれることが多いという点で共通しています。大きく違うのは、発表の場としての「舞台」があるということ。そういう意味で、芸能の世界を舞台抜きに語ることは不可能で、最も格式と歴史を持つ劇場が3年もの間、閉じるということは、想像を絶するさまざまな影響を生むことでしょう。
4月4日夜に放映されたTBSの「情熱大陸」で名優、尾上菊五郎をドキュメントしていました。その中での印象的な一言、「最後最後って言われるけど、歌舞伎が最後ってわけじゃないんだよ。むしろこれからが始まりなんだ、、3年間、お客さんを逃がさないようにしなきゃならないんだから・・・」。役者さん一人一人までが、この3年間への相当な危機感をお持ちなのだなぁと、思わせる一言でした。その菊五郎には来月、すぐに大阪での公演日程が入っています。菊五郎、現在67歳。新生歌舞伎座に立つ日は70歳を迎えているはずです。
その危機感は、演目にも見て取れます。歌舞伎座最後の4月公演と、歌舞伎座公演のない初めての月となる5月の新橋演舞場公演。この二つの公演に共通の演目がかけられています。現在の幹部俳優による4月の歌舞伎座、そして、新生歌舞伎座の主役になるであろう幹部俳優の子供たちによる新橋演舞場。歌舞伎ファンにとくと見比べてほしいという、興行主の松竹や役者さんたちの心意気が演目に表れていると思います。
このふた月の公演でダブっている演目はこちら・・・。
一谷嫩軍記 熊谷陣屋(歌舞伎座では第一部、新橋演舞場では夜の部)
菅原伝授手習鑑 寺子屋(歌舞伎座では第二部、新橋演舞場では昼の部)
歌舞伎十八番の内 助六由縁江戸桜(歌舞伎座では第三部、新橋演舞場では夜の部)
菊五郎さんが言う、「新しい始まり」の第一歩となる新橋演舞場五月花形歌舞伎、、記念すべき公演が今から楽しみです。