美術補整という魔法
お客様が若い頃にお召しになっていた付下げキモノ。お気に入りのキモノには、着用汚れのシミと、柄を構成する刺繍糸の変色。袵(おくみ)線に沿った変色とかなりの問題が発生。
お客様のご要望は、娘に譲りたいので地味にならないようにしたい、そして、色柄が気に入っているので全体の雰囲気を損なわないで欲しいとのこと。
そこで、四つ菱の地模様に合わせて描かれた文様の雰囲気を損なわないよう、シミを隠すための柄足しをすることに。使用するのは顔料のため、キモノを解くことなしに進められます。ただ、シミが多所にわたるため、それを全部柄足しで隠そうとすると、全体のバランスを崩してしまいます。多少のシミは残す方向でお客様にもご了解を得ました。
写真左が補整前、右が補整後。おかげさまで、お客様のご要望に添って全体の雰囲気を損なわずに、お嬢さまにお譲りできるキモノに直すことができました。
2例目は、反物。お祖母様のタンスを整理したら出てきたのだそう。長期間の保存中に大量のカビが発生していて、シミ抜きではとても対処できない状態でした。きっとお孫さんに着せるために買っていたのでしょう。そのお気持ちに応えるため、何とか仕立てて着たいとのことでした。もともと淡いピンクの付下げでしたが、30歳代になっているお客様ですので、多少地味になっても着用可能です。
そこで選択したのが、たたき加工。蝋たたきによる染色技法で、シミが目立たなくなるのです。柄部分のシミは、顔料で補整をすることに。
写真左が補整前。右が補整後です。こちらの方も、ひどかったシミが全くわからないようになり、信じられないほど美しく蘇りました。しかも、ピンクの付下げがお客様の現在の年齢にちょうど良いキモノになり、一挙両得。まさに、美術補整という名の魔法です。
もちろん、「美術補整」は大手術。最終的な手段です。シミ抜きや丸洗い、洗い張りでは対処できない場合に、お客様の了解のもとにおこなっております。金額的にもシミ抜きとは比較になりません。そのキモノに対するお客様の思い入れの深さで、ご予算も決まります。まずは、治療方法を決め、お見積もりをお出しし、進行となります。皆さまも、タンスの中に思い出深いキモノを眠らせていませんか? どうぞ、ご相談ください。
※写真は、ふたりのお客様に許可をいただいて掲載しております。